京都市立芸術大学大学院に在籍し、意欲的に絵画制作に取り組む新平誠洙による初の個展を開催します。
新平は、自らの頭や手の中に湧き起こる内的なイメージを、夢と現実が溶け合うシュール・レアリスティックな絵画世界として描き出してきました。近年は、そうした絵画を描くなかで発生する複数の時間軸や、形や色の関係が生み出す空間の歪み・分裂といった「ノイズ」現象に着目。それらを独自の方法論と描画力によって意識的に操作し、イメージに潜む矛盾や不確かさを顕在化・増幅させるような表現を展開しています。
複数の対象を交互の縦縞状に、あるいは不完全な二重写しのように描く。カンヴァスを物理的に分割し、同一のモチーフを異なる視点・時間で切り取った断片的なイメージとして分散させる。さらに最近では、日常で目にする様々な風景を、反射・透過・屈折といったガラス面に生じる光学現象の原理を適用しながら組み合わせて画面を構成することで、絵画における時空間とその知覚の問題をより端的に、そしてより根本的なレベルで追求しようと試みています。
対象は写実的に描かれる一方で奥行きや厚みを注意深く排除され、極めて表層的なイメージとして同一平面上に閉じ込められてゆきます。そこでは、異質なイメージが一部では溶け合い、一部では反発し合い、また一部では他者を侵しながら、異質なまま同居しています。そうした画面に向き合うとき、描かれた空間を統合し、そこに内包される時間に一定の流れを見出そうする鑑賞者の視線は、周囲への埋没と前景化、断絶と連結を繰り返す諸要素の目まぐるしい運動によって翻弄され、絵画の表面で行き惑うことを余儀なくされます。
新平が生み出す画面と認識の間に起こるこうした知覚作用は、インターネットを基盤とした活動やコミュニケーションが比重を増し、いくつもの仮想的・実在的な時空間が混ざり合う現代の生活のなかで日々経験され、蓄積されている多元的な現実感を想起させます。
そして、完全には統合されることなく画面上で宙づりにされた絵画の時空間は、「イメージ」と「見ること」を可能にしながら、それ自体は目に見えない視覚世界の骨組みそのものを私たちに垣間見せ、絵画という存在自体を動揺させるインパクトを秘めているかのようでもあります。
本展は、作家にとってイメージが内包する複雑さを最も顕著に現す媒体である「窓」をキーコンセプトに、モノクロと蛍光色のみで展開する実験的な新作群を中心に構成されます。同時開催の水田寛展との競演にも、どうぞご期待ください。