小樽運河は、かつて経済の隆盛期には、はしけや荷役の人々の姿とともに独特の風情を醸し、古くから小樽を象徴するものとして画家たちのモチーフになってきました。小樽に生まれ、運河に親しんで育った画家はとりわけ生き生きとした作品を残し、「運河画家」の異名で呼ばれる者もいました。やがて物流拠点としての役割を終えても、運河は人々の労働の証であり、心のふるさととして重要な存在であり続けました。
1960年代に運河埋め立ての方針が示されたことで、むしろ蓄積された汚れや澱みのなかにも独特の美があることを見出し、それを絵にする画家が多数を占めました。デザイナー藤森茂男は、潮まつりなどの街づくりの中心となって活躍し、後半生は運河保存運動に全ての情熱を注ぎ、杭打ちが始まる直前の1985年に集中して運河を描いた人です。藤森の絵の制作は、運河を全面保存し後世に残したいという運動のもはや最終手段であったことに、他と一線が引かれます。
やがて半分が残された運河周辺には、倉庫を活用した商業施設やガス灯などが整備され、現在は多くの人々が訪れる観光スポットとなりました。様変わりした小樽運河に失望し、運河を描かなくなった画家がいる一方で、現代の視点による新たな題材として運河に取り組む画家がいることも確かです。
本展では、運河を見つめてきた画家たちの作品を過去から現在まで網羅し、3部構成により展覧します。この街に受け継がれてきたもの、彼らが伝えたかったこと、思い描いていた未来は何だったのか、これらの作品から感じ取っていただければ幸いです。