ディエゴ・シンの作品は、衝突や、何か確立したものの中心がずらされていくような感覚を与えます。2006年から取り組んでいるデニムのシリーズでは、以前に展示されたペインティングがまるでデニムの騙し絵のように姿を変え、青、黒、白の絵の具で継ぎ目、ほつれ、穴が描かれます。そして本物のデニムがそうであるように、その裂け目の奥にあったものが見えてきます。それはまるでアーティストが「はい、いいえ、ありがとう」と言い続けているかのようで、否定しながらもある表現が提示されていき、またそこから別の物質性が立ち現れてきます。これらのペインティングがもつ終わりがないゲームのような感覚は、マルセル・デュシャンの最後のペインティング「Tu m'(お前は私を)」(1918年)に通じるものがありますが、「Tu m'」がペインティングという媒体から立ち去ることを目指したのに対し、シンは再度ペインティングへ入り直し、その実践を探求し直そうとしています。
本展ではこのデニムのシリーズの最新作を含めた15点ほどを展示いたします。