没後30年を迎える洋画家、鴨居玲の東京では25年ぶりとなる回顧展を開催いたします。
金沢出身の鴨居玲(1928-1985)は、金沢美術工芸専門学校(現在の金沢工芸大学)に入学し、宮本三郎に師事、在学中二紀展に初入選します。しかし、その後の制作は思うに任せず、南米、パリ、ローマを放浪し、懊悩しながらも模索を続け、1969年に《静止した刻》で、新人洋画家の登竜門であった安井賞を受賞しました。
1971年、スペインに渡り、「ドン・キホーテ」の舞台となったラ・マンチャ地方のバルデペーニャスを「私の村」と呼び親しんで、素朴で陽気な人々と交流し、酔っぱらい、廃兵、老人といったモティーフと巡り合い、代表作が誕生しました。この地で人生最良のときを過ごしたものの、生来の放浪癖から、トレド、マドリード、パリと居を移し、画業の面では順調であるかに見えますが、心の中は満たされず、寂寥感に苛まれ、1977年に帰国。終焉の地、神戸で残した作品群は、鏡に自分の姿を映し、人間の心の闇―不安、孤独、悲哀、絶望、醜悪―を鋭く抉り、さらけ出した自画像といわれます。
本展では、57年の生涯で、心身を削るように描いた油彩の代表作をはじめ、素描、遺品など約100点を一堂に展示します。人間の内面を見つめ、自己の存在を問い続けた鴨居玲の作品は、今もなお、見る者の心に強く訴えかけます。多くの人を惹きつけてやまない崇高な芸術世界を、どうぞご堪能ください。