三重県立美術館では、昨年度、松阪出身の写真家魚住誠一の作品を多数ご寄贈いただきました。その作品は、ブロムオイルという独特の印画技法を用いた写真で、大正期に流行したピクトリアリズムと呼ばれる写真運動の一端を、ここ三重県で担ったものです。
その画面には淡い光が充満し、時の流れを逸脱した昼とも夜ともつかない不思議な叙情性を湛えています。時間と手間のかかるブロムオイルによる作品は、現在、コンピュータや携帯のアプリケーションを通して容易に加工できてしまうデジタル写真とは大きく異なり、独特の古色をともないながら、写真の強い物質性を感じさせてくれます。
本展覧会は、2010年の渋谷区立松濤美術館での個展「魚住誠一写真展 ブロムオイルの美学」をのぞきほとんど取り上げられてこなかった知られざる写真家を、その故郷である三重で初めて本格的に紹介するものです。