夜が私たちに開いてくれた無限の眼こそ、私たちには、あの大空にかがやく星にもまさって貴く思われる。
ノヴァーリス『夜の讃歌』
昼と夜が入れ替わる。あるいは、両者の区別が曖昧になる。そのような状況に陥ったとき、私たちの想像力は思いがけない飛躍を果たします。
上のノヴァーリスの詩句に見る様に、夜の闇は多くの詩人や文学者たちを魅了してきました。また、受験勉強や原稿書きなど、真夜中のほうがよくはかどったという経験は、誰しもあるのではないでしょうか。そんな夜の闇に潜んだ私たちの霊感を呼び覚ます思議な力は、美術家の心をも捉えてきたはずです。
一方、美術作品に表現されたイメージのなかには、白昼夢とも呼べるようなヴィジョンを見出すことができます。本展では、そんな多くの作品のなかから、「幻視」と「蜃気楼」という二つのキーワードに沿って作品を選び、昼間に見る夢や幻の形象について検討します。
昼に活動をして、夜には目を閉じ休息する。そんな日常の循環から逸脱した際にふいに訪れるインスピレーションは、どのように美術作品と関わっているのでしょうか。本展では、そうした昼夜逆転の状況が生む想像力の不思議を、所蔵作品を通してご紹介します。