浮世絵は今日、日本を代表する美術品として国内外で高い評価を得ています。江戸期では庶民の身近な風俗を題材にしながら人々に親しまれ発展してきました。そして、幕末から明治にかけての動乱の時代、開国から文明開化と目まぐるしく移り変わる日本の世相を最も生き生きと伝えていたのも浮世絵でした。政治の変革や西洋文化の流入に人々の関心が集ったこの時代、浮世絵は庶民の目線で世相や事件に風刺や想像を加味して描かれ、一層時代の機微を捉えます。
幕末期は、幕府の出版規制により浮世絵の題材は忠孝や教訓につながるものが奨励され、歴史や説話が主題の浮世絵が盛んに出版されます。中でも、この時代に一大派閥をなした歌川派の絵師たちは、混沌とする世相を歴史上の武者たちの活躍になぞらえて描き人気を得ます。そして、新たに迎えた明治期では、浮世絵の主題に大きな変化が現れます。急速に西洋化する都市の様子が積極的に扱われ、博覧会開催や鉄道開業など時代の最先端の場面とそれらに興味と好奇心を持って見る人々の姿などが描かれます。明治期の浮世絵は新時代を期待する庶民にも大いに受け入れられたのです。
浅井コレクションは、こうした幕末から明治にかけて浮世絵がどのような役割を果たしていたかを今に伝えています。浅井コレクションを成した浅井勇助氏は、「浮世絵は美術品として作られたものではなく、いわゆるかわらばんから進化したもので、情報誌であり、実用品であった」ことを信念に、主に歴史・説話・昔話などを題材にした一万点余りを蒐集しました。
本展は、その浅井コレクションより幕末の世相を描いた歴史絵、武者絵、風刺絵から明治維新、文明開化の様子を描いた開化絵、新聞錦絵まで大判三枚続きの迫力ある作品を中心に約百点を展示します。日本の転換期に浮世絵がどのような題材で人々に何を伝えてきたのかを当時の情報を満載した幕末明治の浮世絵からお楽しみください。