東島毅は、呼吸をし、あるいは変容を続けるような気配を発する、まるで生きているかのような絵画を描き続ける。特に近年は、見る者の視野の全てを覆うほどの巨大な絵画を制作し、それを床に寝かせ、壁に立てかけ、時には屋外で風雪にさらすような展示を行ってきた。
本展に向けても、建築の持つスケール感と衝突するような大型の新作が用意されている。しかし、同時に、これまで公開されることの極めて稀であった1990年代のニューヨーク滞在期の作品も含めて、作者が「大きさを抑えることで成立する控えた美しさや静かさを感じるきりっとしまった作品」を揃え、この数年の試みとは一味違った空間を有隣荘に作り上げようとしている。
題名に掲げられた「キズと光」は、東島作品の本質を突くキーワードである。さらにこの題名の選択には、長い時を経たものならではの有隣荘の存在感への敬意や、2点が対となって制作、展示された作品によって構成される本展のコンセプトをも示している。
東島毅が新たな一歩を有隣荘で刻むのである。