美術館で作品を見ることは、とても個人的な体験です。たとえ作品の前にたくさんの人がいても、誰かと一緒に美術館を訪れても、ある瞬間に作品と向き合って感じた思いは、「わたし」ひとりのものです。また、展示されている作品も、ある時代を生きた/生きている美術家という個人が制作しなければ、いまここに存在することはありません。ときには、個人コレクターが慈しみ、蒐集した作品が、まとまったかたちで美術館に受け継がれる場合もあります。このように、美術館は開かれた公の場でありながら、同時に時代や場所を超えた「個」と「個」の出会いによって成り立っていると言えるでしょう。埼玉県立近代美術館は、2年間にわたる改修工事を終えて、2015年4月にリニューアルオープンを迎えます。その幕開けとなるこの展覧会では、「私的な/個人的な」という意味を持つ言葉「private」を手がかりに、核となる3つのセクションと、各セクションをゆるやかに繋ぐ作品群によって、当館のコレクションを紹介していきます。それは当館がこれまでに積み重ねてきた「個」と「個」の出会いを振り返る機会にもなるでしょう。この展覧会がさまざまな「private」と新たに出会う場となり、「わたし」の感覚をしなやかに「ひらく」―その契機となることを願っています。