池田龍雄今昔展・口上
わたしがこの道を歩き始めたのは、多摩美に入学した1948年(昭和23年)の春だから、それから丸67年、その間に世の中 何もかも大きく変わりました。
焼け野が原のどん底の飢餓から贅沢な飽食の時代へ。極端な物不足から捨てるに苦労する物余りへ。経済は急成長、やがてバブルの頂点に達したあげく当然弾けて急降下。その間にコンピュータ化は加速度を増し、情報は洪水となって溢れ出し、便利さはもはや極限に近付き、いわゆる「現代文明」は病的な肥大化の一途を辿って 未来は暗澹。
そのような‘時の流れ’の中で芸術も目まぐるしく揺れ動きました。何よりも、その概念の根本からして大きく変わったのです。
たとえば、それまでは非芸術であったものが芸術に、反芸術と称していたものが公認の芸術に…という具合。わたしもまたその中にあって相応に変化を遂げました。
しかし、三つ子の魂百まで、とか。一貫して変わらない一面もまたあります。わたしの場合、それは戦争によるトラウマ―はっきり言えば、国家権力=外圧によって受けた心の傷―です。実は、それがわたしを絵の道に向かわせた原因でもありますが、しかし、国のために酷い目にあった、騙された! という不信感、懐疑心は、今なお消えません。そしてその思いは、いつしか、世界と己れとの関係、はたまた、いのちの神秘、時間の不思議、存在の謎、にも向かいました。そして、外部と内部がトポロジーのいわゆる「クライン瓶」のようにひとつながりになっていることに思い至り、現在それは『場の位相』と題したシリーズとして続けられているわけです。
大阪で開く個展はこれが初めてですが、「今昔」と言っても、近年のシリーズ『場の位相』と、その周辺の作品が大部分で、昔のものはほんの数点です。でも、初めて見る人にとっては総て初対面だから、今も昔もないでしょう。作品は、それを「見る人」によってその人なりにまた新たに創造されるのですから。
どうぞご随意に、遠慮なく…
池田龍雄