土門拳は、昭和14年、30歳のときに室生寺を初めて訪れ、その翌年に広隆寺、中宮寺の弥勒菩薩を撮ってから、実に40年をかけて全国の寺社をめぐり、作品を撮り続けました。美術出版社刊「古寺巡礼」は、昭和38年、第1集を発刊してから、昭和40年、43年、46年と刊行を重ね、その間、脳出血で倒れ、車椅子の身となってなおも撮り続け、昭和50年に第5集で完結。「写真の鬼」と呼ばれた撮影への執念、気迫のこもった対象への凝視によって生まれた作品群はまさに日本人の遺産と言えるでしょう。
今回の展示は、そのライフワーク「古寺巡礼」の中から、『走る仏像』の名文を生んだ 「平等院鳳凰堂夕焼け」や、「薬師寺東院堂観音菩薩立像(聖観音)頭部」「神護寺金堂薬師如来立像頭部」など見るものをとらえて離さない傑作を選んでいます。土門拳独自の力強いカメラアイから真摯な気持ちが伝わってきます。