日本の中世は、社会の体制や権力構造が大きく転換し、美術を生み出す人々の層が大きく広がりました。絵画に落款(らっかん)が認められ、描いた人物の名前が明らかにされたり、公文書にはサインである花押(かおう)が用いられるなど、個性や個人に目が向き、意識された時代でもあります。天皇や公家のみならず、武士や僧侶にも個性あふれる様々な人物が活躍します。
展覧会ではこうした中世を生きた人々に注目し、宸翰(しんかん)、日記や消息(しょうそく)などの書蹟、僧侶の肖像、祖師絵伝、社寺縁起などを展示いたします。中でも、南北朝時代に活躍した中院通冬(なかのいんみちふゆ)(1315~1363)の自筆日記である『中院一品記』(なかのいんいっぽんき)の断簡が、同時代の公家である洞院公賢(とういんきんかた)(1291~1360)の自筆書状の紙背(しはい)として当館に所蔵されます。日記の大部分は東京大学史料編纂所に所蔵され、このたび当館所蔵断簡との接続部分を特別に展示いたします。また、公賢が石山寺座主(いしやまでらざす)・益守(やくしゅ)とともに企画した「石山寺縁起絵巻」のうち第五巻と、同巻と同じ絵師が描いたとされ、室町幕府八代将軍足利義教(あしかがよしのり)によって奉納された「誉田宗庿縁起(こんだそうびょうえんぎ)絵巻」下巻も特別に展示いたします。足利将軍および周辺の公家の美意識と激動の中世を生きた人々の息吹をお楽しみ下さい。