那波多目功一は、1933(昭和8)年茨城県ひたちなか市に生まれ、再興第35回院展に16歳で初入選するなど、早くから才能を開花させました。その後会社員を経て企業家の道を歩みつつも、画家であった父の意志のもと絵画制作を続け、西洋絵画への憧れや、生と死のテーマにこだわるなどの試行錯誤を続けます。そして松尾敏男と出会い、助言を得て、徹底した写生をもとに制作することに専念するようになりました。さらに那波多目は自分らしさを求めて、確かな写生に加え西洋絵画から色彩と装飾性を取り入れるなど新たな境地を拓きました。ひたむきに四季の花々や風景と対峙し、研鑽を積むことによって生みだされる鋭い観察眼に基づき細密に描写された花卉や風景。現実でありながらも幻想的な雰囲気漂う昇華された心象風景として、まさに写意を描いた独自の境地が高く評価され、日本美術院賞など数々の受賞を重ね、1990(平成2)年日本美術院同人、2002(平成14)年日本芸術院会員となり現代日本画壇の重鎮として確かな地位を築いています。
「これまでは、花の命を描ければと思ってきましたが、画品というものが少しでも出せないか」と81歳の現在も対象と深く向きあい格闘しながら、意欲的に制作を続け、品格ある絵画を描きつづけています。
本展では、再興院展、春の院展出品作を中心に初期から近作にいたる約70点の作品を展覧し、叙情あふれる絵画世界をご紹介いたします。