「色彩感覚の良さといい、発想の豊かさといい、全体の完成度といい、見事としか言いようがない。地球には、とんでもない人がいるものだ」
―さくらももこ『憧れのまほうつかい』(新潮社)より
イメージの魔術師と称されるイギリスの絵本作家、エロール・ル・カイン。
1941年シンガポールに生まれたル・カインは、インドで幼少の一時期を過ごしました。アジアとヨーロッパの血脈をもち東洋で成長したことは、ひとつのスタイルに収まらない多様な作風に大きな影響を及ぼしています。15歳でアニメーションの勉強のために単身ロンドンへ渡り、68年に映画用のラフスケッチを元に最初の絵本『アーサー王の剣』を出版。85年には『ハイワサのちいさかったころ』でイギリスで最も権威ある絵本賞ケイト・グリーナウェイ賞を受賞し、以後47歳で早世するまでに40冊以上の絵本を手がけ、イギリスを代表する絵本作家として没後なお高く評価されています。
古今東西の様々な美術様式や映画からインスピレーションを得ているル・カインの作品は、物語によって魔術師のごとく自由自在に異なる作風を展開しているのが最大の特徴であり、魅力といえるでしょう。緻密さと大胆さをあわせもち、そして子供が手に取るたびに新しい発見があるよう、細部にも物語に沿ったイラストが施された珠玉の絵本となっています。
首都圏初の大規模なル・カイン展となる本展では、えほんミュージアム清里の所蔵品から、絵本原画約150点をはじめ、未使用原画、アニメーション原画、初版本などを展覧するほか、わずか15歳で創作した手描き絵本を初公開いたします。また、同ミュージアムが所蔵する他の絵本作家の貴重な初版本や原画を特別展示し、世界中で愛され続ける絵本の魅力の原点をあわせてご紹介します。