置かれた潜在性
ものは、つねに<現在>である。ものの現在性は、意識しなければ見えないものである。
だから、ものを見ようとするとき、ものの現在性を直視しなければならない。
ものの隠れたリアリティーを見ることは、世界の成り立ちを知ることでもある。
菅 木志雄 2014
1968年に多摩美術大学を卒業した菅木志雄(1944年-)は、「もの派」と呼ばれるこの時代の美術動向を代表する作家の一人です。近年、概念的思考と物質を結びつけた70年代的な試みは内外で注目を集め、イタリアの芸術運動アルテポーヴェラと並び、もの派の作品、なかでも、菅の仕事は高い評価を受けています。
石や木、金属板などを素材として空間の中に形成される菅のインスタレーションは、物質と物質を一つの空間に共に存在させることによってたちあがってくる「風景」の生成といえます。物質が集合して存在すること、そこから生まれる、相互の連関性、これらを知的に感性豊かに制御することで空間が、物質が変容をはじめます。創作行為という介入の結果により空間を活性化すること、それが菅の作品の本質にはあるのです。
菅の作品は、現代のバーチャルなネットワーク社会にあって、フィジカル (現実の身体的) な複雑さと実感を伴った世界との接触を求める私たちの内的欲求を反映していると言えるでしょう。私たちはただ表面的につながっているだけでなく、個々が確かな存在として全体にかかわり、空間に作用しています。本展は物質と身体、空間について菅作品が内包する多くの示唆に富んだ視点を、菅のコンセプトが先鋭的にあらわれた70年代を中心に、インスタレーションや制作ノート、記録映像を通して、提案するものです。