岡崎市旧本多忠次邸は、長く岡崎藩を統治した本多家の子孫本多忠次が、1932(昭和7)年、東京世田谷に建造した洋風住宅です。近代の新しい住宅思想に大いに感化された忠次は、間取りの構想から家具調度の選択まで、自ら進んで携わり、完成後およそ70年という長い年月をこの住宅で過ごしました。忠次の死に伴い、住宅は取り壊しの危機に陥りましたが、保存を求める人たちの尽力により、2012年岡崎市東公園内に移築・復原されるに至っています。
こうした経緯をもつ旧本多忠次邸は、もともとの建築部材や材料を部分的に残しながらも、新品の模造材によって補われ、在りし日の姿を留めていた家具調度類も、修復により表面が取り替えられたり、新たな層が塗り重ねられたりしています。だからでしょう。ピカピカに蘇った現在の建物は、生活感のない、「ツクリモノ」のような空気に満たされています。しかし、その下には、80年前に遡る原形が息を潜めており、この原形があってはじめて、「ツクリモノ」は成り立っているのです。
このような「本物」と「作り物」から成る旧本多忠次邸を舞台に、この関係をアートにおいて実演したいと思います。はたして、目の前にある現実やドキュメントなどの「事実」と称されるものは、「真実」なのでしょうか。そこには、記録者の、また読み取る側の、無意識と恣意による様々な「ツクリゴト」が入り込んでいるでしょう。「ほんと」のことは、ときに「ツクリゴト」の大きな糧となります。目の前に広がる風景を二次元の写真上で異化する城戸保。ドキュメンタリーの手法に基づきながらも、それをフィクションとも異なる次元に攪乱させる髙橋耕平。「ほんと」のうえで大いなる「ツクリゴト」を楽しむ彼らの作品を通して、ドキュメントとフィクション、「ほんと」と「ツクリゴト」、その重なり合いから生まれる豊かな創造を楽しんでいただければと思います。