今日きりえ作家として名高い滝平二郎は、大正10(1921)年に生まれました。生まれは、茨城県新治郡の玉川村で、現在は玉里村となっています。県立石岡農学校(現在の茨城県立石岡第一高等学校)を卒業しました。
初めは風刺漫画を描き、木版画の世界へと向かいます。しかし、その頃、戦争が始まり、兵隊となりました。沖縄で捕虜となり、戦後、郷里に帰ります。そして再び版画を始め、戦争での体験や人間が懸命に生きる姿をテーマにした作品などを制作しました。
昭和30年頃、東京豊島区の〈異人館〉に住み、版画のテーマや技法などを深める一方、装丁、さし絵、絵本などの仕事にも力を入れるようになってきます。
滝平二郎の〈きりえ〉を用いた仕事は、すでに昭和30年代半ば頃には行われていたようです。しかし、多くの人々にきりえ作家としての滝平二郎が知られるようになったのは、昭和44、5年頃、朝日新聞の家庭欄や日曜版にきりえの連載が始まってからと言えるかもしれません。滝平作品に触れる人々は、この時期、数百万人の新聞読者に拡大し、その階層も、絵本を読んでいる子供たちや親たち、古くから滝平作品を知る人々の他、学生からお年寄りまで多くの人々へと広がっていきました。
滝平作品は、こうした多くの人々の圧倒的な支持を受け、作者自身が、それに応えることのできる内容の作品を持続的に生み出す力を持っていたため、長期にわたって連載され、その与えた影響の深さは未だに続いています。
この展覧会では、新聞や絵本そして郵便切手などの原画となった〈きりえ〉約100点を中心にして、滝平芸術の理解には不可欠な「鎌(その1)」などのきわめて重要な版画20点も加え、ミニ・シアターなどのコーナーなども設けて、わかりやすく滝平二郎の業績を紹介・展示いたします。会場には、夏休みの学習や家族向け入場者のための無料ワーク・シートも準備しております。筑波山の見える滝平二郎のふるさとに最も近い茨城県つくば美術館でのこの展覧会をお楽しみください。