平安時代中期に紫式部によって著された源氏物語。この長編物語は、成立直後から現代まで、絵画作品をはじめ多彩に表現されてきました。それらは、図像が継承されるだけではなく、物語がイメージの源泉となり、新たな展開をみせ愛好されてきたのです。これほど長きにわたり愛好される古典文学は、日本美術史上まれに見る存在といえましょう。中でも12世紀前半、当時の宮廷を中心に描かれたと考えられる徳川美術館、五島美術館収蔵の国宝『源氏物語絵巻』は、現存最古にして優品であることが知られています。
この、徳川・五島本『源氏物語絵巻』は、これまで幾度も模写されています。本展は、東京藝術大学と徳川美術館の協力を得て、所蔵する源氏物語絵巻の模写作品を公開するものです。東京藝術大学本は、平成15年から7年かけて全56面を寸分違わず模写した、精巧な“現状模写”です。徳川美術館本は、平成11年から6年かけて、同館が所蔵する同絵巻のうち絵画15面を、絵巻成立当時の色彩を最新の科学技術を用い調査・分析し、細部まで模写し現代によみがえらせた“復元模写”です。
また今回は、平安当時の感性を知る一助とするため、復元した王朝装束も展示します。これらにより、古典文学が視覚化された『源氏物語絵巻』の世界を堪能していただくと同時に、作品保全と展示公開の関係や、文化や技術の習得と伝承などの視点をあわせ、多面的に模写作品に対する理解を深めていただく機会となれば幸いです。