古川吉重は、1921年、福岡市に生まれました。幼い頃から絵を好んだ古川は、福岡県中学修猷館(現・県立修猷館高等学校)を卒業した後、東京美術学校(現・東京藝術大学)で油彩画を学びます。戦後、独立美術協会展で独立賞を受賞するなど順調なスタートを切り、日本で画家としての地歩を固めていきますが、40歳を超えてニューヨークに移住。渡米後の生活は楽ではありませんでしたが、制作を続け、次第にアメリカでも認められるようになります。
ニューヨークの地で古川が追求したのは抽象表現でした。日本では油彩画を専らにしていた古川は、渡米後の60年代は明快な形態と色彩の抽象画に取り組み、70年代には裂いたキャンバスやゴムシートを用いた作品を発表していきました。しかし、その後、古川は油彩に回帰し、地と図が独特の関係を結び合う抽象の世界を展開させます。明快さと複雑さが同居し、理知とともに情感をたたえる古川の抽象。その「色」と「形」の真剣な戯れには、同時に浮遊感も内包され、「ニューヨークの空を飛ぶ小型飛行船のように、のんびり浮かんでみたい」と言った彼の在り方そのものもこだましています。
本展では、国内の各美術館やアトリエに残された多くの作品から約90点の優品を選び出し、画家・古川吉重の軌跡をたどるとともに、その作品世界の魅力を紹介します。