公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第234回として、「伝統と現代に重ねられるポリフォニー 内藤定壽 (ていじゅ) 展」を開催いたします。
『ポリフォニー』とはもともと多声音楽を示す音楽用語ですが、例えば一人の主人公で展開する物語に対し、複数の主人公が織り成す人間模様を一つに重ね合わせた物語を指すときにも使われる用語です。尊敬する古典絵画と画家としての自分が生きる現代を同等に扱い、対峙し、その相乗効果で新たなものを生み出そうとしてきたつくば市在住の洋画家・内藤定壽さんの試みはこの『ポリフォニー』に例えることができるでしょう。
内藤さんは、洋画家の父の影響で幼い頃から美術に親しむ環境に育ち、また昆虫や魚、植物を採取し飼育栽培して観察することを趣味とする少年でした。筑波大学に進学した内藤さんは、朽ちた倒木をモチーフに描いたことを契機に、写実に強い興味を持つようになります。東西の古典絵画に学び、それらの表現技術を積極的に取り入れながら、材木、鴨、建築物、百合、熱帯植物など、さまざまなモチーフを描いてきました。克明に描かれたモチーフは現実のものでありながら、この世のものではないような崇高な存在感を示しています。
内藤さんは技法の研究にも取り組み、油絵具とアクリル絵具を併用する技法について、これまでにない新たな表現領域を開きました。その技法は、アクリル絵具の長所であるすばやい描写と、油絵具の長所である透明性と深み、光沢を併せ持つもので、しかも堅牢な画面を生み出します。この技法によって、内藤さんの写実表現はより透徹さを増していきます。
3年前の初夏、二紀展のための構図を模索していた内藤さんは、古典絵画を画面に取り入れることを思いつきました。ドラクロワやラファエロら巨匠たちの傑作と、それを描いている自分自身の姿を描き込んだ一連の作品は、「過去と現在」「本物と模写」「描く者と描かれるもの」が混在した不可思議な空間に鑑賞者を誘い込みます。
今展では、内藤さんの初期から近作まで優品15点を二期に分けて展示します。
公益財団法人 常陽藝文センター 学芸部