風景画は北欧絵画の中で重要な位置を占めます。特に自国の風景の特異性に気づいた、19世紀のスカンディナビア(デンマーク、スウェーデン、ノルウェー)の画家たちは、風景画に取り組む姿勢も際立っており、数々の傑作を生み出しました。
北欧の画家というと、ノルウェーのムンクの存在があまりにも大きいため、それ以外の画家たちはその影に隠れてとかく過小評価、あるいは無視されがちですが、その実力は侮れないものがあります。彼らの絵画は、時には清らかで美しく、また一方では人間の内面や近代社会の裏側を鋭く掘りさげたりもします。白夜の光やフィヨルドの眺めが、我々に自然の驚異と神秘を感じさせないように、彼らの表現には西欧の絵画とは大いに異なる美や迫力があって、それらの特質が世紀末の20年ほどの間に一挙に噴出したようにも思われます。
本展ではムンクの風景画をはじめとして、これまで日本ではほとんど紹介されることのなかった、スカンディナビア三国の選び抜かれた画家たち53人の良質な油彩画76点がヴェールを脱ぎます。深い森、静かな湖、雄大なフィヨルド、短い夏の緑と白夜の空、冬の長い夜と純白の雪など、北方ならではの独特の自然や光の表現がもつリアリティをきっと実感していただけることでしょう。