近年「リアル」という言葉をよく目にします。「現実の」とか「本当の」といった意味の英語が元になっていますが、なぜかその言葉には本来の意味とは逆の嘘っぽさも漂います。ひとつには、現代人が抱く現実への不信感が要因ではないでしょうか。インターネット上の世界は急速に実体感を増し、現実世界が持っていた唯一の実体性を揺るがし始めました。ふたつの「現実」に抱く現代人の微妙な感覚を「リアル」という言葉はうまく表現しているのかもしれません。「リアル」がネット上の世界に対する現実世界を意味する言葉として使わるのも象徴的です。
今回の展覧会では、和歌山県出身者を含め、関西を拠点に活躍する1970年代から80年代生まれの美術家5人―伊藤彩、大久保陽平、岡田一郎、君平、小柳裕―の仕事を紹介します。それぞれ異なるメディアを使用し、表現のスタイルも異なっていますが、ふだん目にする風景や身の回りの品々、実際に存在する動植物や自然現象などを素材としていることは共通します。
本物そっくりでありながら見る者に違和感を感じさせ、日常や現実の危うさを露わにする。細かな世界を拡大して、世界は存在するという確かさを主張する。あるいは妄想と現実が入り交じった不可思議な世界に自分を仮託する。それぞれの作家は、自らが生きる世界、そして自分という存在の危うさやあやふやさを知りつつも、それが依って立つ足元を踏み固め、たぐり寄せようとするかのように作品を作り出します。新しい世代の美術表現から、現代における「リアル」の感覚を探ってみたいと思います。