詩人、画家、造本家、社会思想家など様々な肩書を持つウィリアム・モリス(1834-1896年)は、その晩年、理想の書物の制作を目的に印刷工房「ケルムスコット・プレス」を開設しました。同工房の刊行本には、豊かさの本質とは何かを模索し続けたモリスの思想と実践が貫かれています。なかでも、うらわ美術館が所蔵する『ジェフリー・チョーサー作品集』はモリスが手掛けた最高傑作として知られています。
本作が制作された19世紀末のイギリスは、産業革命の成熟によりあらゆる製品が安易に大量生産できるようになった時代でした。モリスは物質的な充足の一方、精神的な豊さが失われていることに警鐘を鳴らし、機械生産によって市場に氾濫する製品とは一線を画した手仕事の重要性を訴えました。手仕事の良さを見直し、自然や伝統から美を再発見しようとするモリスの思想は、現代の私たちの生活にも影響を与えながら、今なお遠い理想のようにも映ります。
本展では、当館コレクションから世界三大美書のひとつともいわれる『ジェフリー・チョーサー作品集』を公開し、あわせて個人蔵の貴重な関連書籍も展示します。豊かさの本質とは何か、モリスの美意識を味わいながら、生活のなかの芸術について思いをはせる機会となるでしょう。