武者小路実篤は、38歳で初めて子どもを得ます。我が子のかわいさに、実篤は風呂を焚いて入れ、抱いてあやし、日記に「親馬鹿」そのままの詩を書くほどでした。その後、次女・三女が生まれ、三人の娘の父となります。
風貌や文学の傾向から謹厳なイメージの実篤ですが、家族への手紙や、安子夫人のスケッチ、三女・辰子さんのエッセイから、子どもと一緒にふざける楽しいパパだったことが分ります。孫が生まれると、孫に対しても遊んだりからかったりする面白いおじいちゃんでした。
子や孫との親密な家族生活を経験して、実篤の生活観・家族観も変化し、それは文学作品にも投影されています。親の視点が加わり、子世代を主人公とした作品も現れ、また娘たちに接したことで、作品に描かれる女性像も広がりました。
本展覧会では、武者小路実篤の人として、家庭人としての素顔を取り上げるとともに、家族の歴史が実篤文学にどのように表現されたかをご紹介します。