明治元(1868)年に生まれた横山大観は、東京美術学校に入学し岡倉天心や橋本雅邦らの指導を受け、日本画の革新に取り組み、近代日本画の成立と発展に多大な影響を与えました。大観は、とりわけ1940(昭和15)年頃から、富士をモチーフとした作品を数多く描いたことで知られています。また、それ以前の明治大正時代にも、富士の作品を制作していました。
本展では、初期から晩年に至るまで、大観の描いた富士を一堂に集め、その画業を振り返ります。大正期の富士は、琳派の研究をいかしたもので、鮮やかな色彩と明快な構図により、装飾的でおおらかな造形感覚を見ることができます。昭和初期以降は、前景にある山々や雲海をしたがえるようにして聳え立つ富士へと変わり、国威発揚のイメージを前面に出した威厳に満ちた作品を描きました。さらに、戦後になっても表現の工夫を怠らず情熱をそそぎ、富士の作品を描き続けたのです。
横山大観は、造形的な試みやモチーフに託す意味を変えながらも、生涯を通じて富士に対して格別の思いを寄せていました。作家にとって特別な意味をもつ富士をテーマに、その画業をたどります。