柳澤顕は2011年に京都市立芸術大学大学院にて博士号を取得後、当廊において大規模な個展を開催、香港での国際的なアートフェア「ART HK」でも個展形式で発表し、国内外で好評を得ました。2012年以降は出身地である群馬に戻り、制作の日々を重ねてきた柳澤による約3年ぶりとなる個展を開催します。
柳澤は、「自己表現」としての絵画と「描く」ことの主体性に疑問を抱き、直接的な描画行為とその痕跡としての絵画を解体し、半自動的でありながらも生命の発生過程に似たシステムを制作方法として構築することで、絵画というメディアに新たな領域を切り拓こうとしてきました。
コンピュータ上で生み出される図像を、ステンシルの技法を用いることで無機質な絵画面へ置き換えていくという独自のプロセスによって、柳澤はこれまで多面体や線の集積による抽象的な絵画世界を展開してきました。しかし近年は、「見る」という行為において抽象的な形から具体的なイメージや意味が生まれる認識のプロセスに関心を寄せ、図像の選択にも一定のルールを介在させることで、具象性を帯びた画面構成に取り組んでいます。また、手痕や意図的なマチエールはこれまで通り慎重に排除される一方、最近作においては、新たな技法を採用したことにより、作者自身のコントロールを超えた独自の物質感が実現されています。
柳澤は、自らの絵画表現について次のように語ります。
コンピュータを用い、幾何学形体に繰り返し変形を加えることで偶発的に図像を作り出し、それをステンシルの版を用い絵具でキャンバスに定着させる。そうして出来た絵画は、幾何形体と有機形体、具象的な形と抽象的な形、フラットな色面と色斑やテクスチャが混在する。
相反するものの混在と流動化によって、複雑に見えた形が単純な繰り返しの変化によって出来ていること、そして単純に見えるものに複雑さが見えてくるような、生命の在り方を内に秘めた作品を作りたい。それらの作品は作者が作り出しているのか、または作り出されているのか、鑑賞者は見ているのか、見させられているのか、という絵画の問いと喜びを生じさせる試みでもある。(柳澤顕)
自らの絵画を、作為と無作為、抽象性と具象性、機械的な滑らかさと身体的な揺らぎがせめぎ合う表層として生み出してきた柳澤ですが、近年のさらなる試みは、視覚における認識の問題にも切り込みながら、こうした両極の要素を相互に浸透させ、単純な二分法を融解させてしまうような新たな絵画表現を追求するものといえるでしょう。
本展は、こうした新たな展開を見せる最新作のみで構成。木、鳥、人などをモチーフとした作品と、遠景の風景画のような画面をギャラリー空間に点在させることで、遠景/近景、鳥/人といった多視点的なイメージが交錯する展示空間を創出するとともに、画面の外に広がる壁面にも図柄を施し、空間全体をひとつの「森」に見立てたインスタレーションをおこないます。また、本展とともに、東島毅による個展を同時開催いたします。ふたつの異なるアプローチから生み出される絵画表現の競演を、どうぞご期待ください。