最新の風俗を描いた浮世絵は、江戸時代の服飾文化を今に伝える格好の絵画資料です。町人が経済力をもったこの時代、女性たちは季節や行事ごとに、きものの素材や模様、着こなしに変化をつけ、装うことを楽しみました。江戸初期には、刺繍や絞りによる大柄な図様の寛文小袖が流行し、友禅染の誕生以降、繊細な染め模様が展開していきます。中期には、上下の割模様や総模様、裾 (すそ) 模様の形式が生まれ、梅や菊などの光琳模様が大流行します。そして後期には、幕府の奢侈禁令を逆手にとって、渋い色合いの縞や格子、江戸小紋といった粋な装いが好まれました。
また当時、人々が憧れた歌舞伎役者や遊女は、流行の先端をいくファッションリーダーでした。例えば、市松模様や芝翫 (しかん) 縞のように、人気役者の衣裳や紋から流行が生まれます。役者や遊女の姿が色鮮やかに描かれた浮世絵には、おしゃれに敏感な人々が着こなしの参考にする、スタイルブックの役割もあったことでしょう。
このたびの展覧会では、肉筆浮世絵や錦絵から、女性のきものの多様なデザインをみていきます。あわせて、女子美術大学美術館のご協力により、実際に着用されていた江戸中期から後期のきものの名品を紹介します。現在も色褪せない江戸のきもの文化をお楽しみください。