「稲葉さんの作風」
古い石が立っていると、私は一寸立止って眺めてしまう。自然の添作はどうして、作意がないのだろう。稲葉さんは絵の前で筆を握ると、果しない空間の果を見据えている。作意を表に見せないで、ほほえみを湛る構えである。長い時間が画面を流れて行く。結果として厚塗りの作品が多い。そんな作品の合間に、フッと薄塗りの作品が生まれて来ることがある。
おやっと思って、眺めていると、根気の長い間の隙間に駆け込んで来た、いたづらっ子の表情である。何時も微笑みを絶やさない生き様が、見る人に自分の生き様さへ、考えさせるのが、彼の作風である。
坂本善三美術館 名誉館長 坂本寧