河野次郎(1856-1934)は、足利藩出身の画家です。田﨑草雲に南画を師事し、のちには洋画も学びました。一説には高橋由一に師事したともいわれ、明治期の近代洋画の幕開けに寄与した知られざるパイオニアの一人です。彼は、愛知県と長野県で長らく師範学校の教員を務めました。かたわら画塾を開き、洋画の教科書の編纂も手がけています。師範学校を辞したのち、長野で写真館を開業しました。大正時代の異才の画家として知られる河野通勢は次郎の子です。
次郎は、熱心なハリストス正教会の信徒であり、西洋古典美術への造詣が深く、彼の蔵書には国内外で出版された美術書が多数ありました。これらの書籍のおかげで通勢は、小学校時代からミケランジェロやダ・ヴィンチの名を知り、早々と模写しています。次郎の蔵書がなければのちの通勢は存在しなかったかもしれません。通勢は19歳の若さで二科展に入選し、脚光を浴びました。
本展は、ご遺族から寄贈された河野次郎の100点以上に及ぶ絵画や資料を中心に構成し、郷土が生んだ未知の画家に焦点を当てるものです。あわせて師と仰いだ田﨑草雲や高橋由一、子・河野通勢や、通勢とも親しかった牧島如鳩を紹介し、河野次郎とその周辺を浮き彫りにします。