人形は、人間の生活する地域には必ずといってよいほど存在します、その表現方法や素材に相違があったり、巧拙はさまざまであっても、人間の姿を作り出そうとしなかった民族はありません。日本においても古くは形代(かたしろ)、人間の身代わりとして土俗信仰的に扱われ、呪物として用いられましたが、しだいに子供の愛玩具となり、近世においては芸術的鑑賞の対象ともなってきました。
江戸時代初頭に佐賀県有田地方で誕生した伊萬里焼は、陶石を細かく砕いて粘土とし、まさに芸術的ともいうべき人形を、1,300度もの高温で焼き上げました。そして、これらの人形たちは、伊萬里焼の主要な輸出品の一つとして、海路でヨーロッパへ多数運ばれました。重くて不透明な陶器に比べ、軽くて薄く、美しく彩色され透明性をもった磁器は、当時のヨーロッパでは製作しえなかった、ハイテク製品というべきものです。技術の粋を集めて作られた、柿右衛門様式に代表される伊萬里焼の人形群が、彼の地の人びとの心を捕らえたのは、当然といえるのかもしれません。さらに、人形とならんで製作された伊萬里焼の造形物には、さまざまな動物を象った置物類も多数あります。また、壷や鉢の蓋の甲には、小さな動物が摘みとして付けられたりと、そのバリエーションの豊かさには目を見張ります。
人間や動物を陶石によって具象化した古伊萬里・柿右衛門様式の彫塑的な作品を、今回の特集陳列でご鑑賞下さい。