このたび、武蔵野美術大学美術館・図書館では、「しかけ絵本Ⅱ:江戸から明治に見るあそびのしかけ」を開催いたします。
わが国には江戸初期から三百年もの間、継がれてきた独自の手あそびの文化があります。
十七世紀半ば頃に江戸庶民のくらしの中にあった「絵双六」は、数百年にもわたり実に多種多様なテーマで制作されていて、現代においても定着しているあそびの文化のルーツでもあります。また、十八世紀後半頃から十九世紀にかけて、色摺木版の一枚摺絵である「おもちゃ絵」が隆盛となりました。これらは、教育的な役割を担っていた子どものための知育玩具であると同時に、現代の絵本の前身を見ることができます。
さらに、一枚摺絵やその数枚セットになった錦絵を切り抜いて組み上げ、立体的な造形を愉しむ「組上燈籠」とか「立版古」と称された独自のしかけものがありました。そこには一枚の紙に描かれた平面構成から視覚的な立体構造を形づくるデザインに職人芸の極致を見ることができます。
本展においては、江戸から明治にかけて流行していたおもちゃ絵、判じ絵、尽くし絵、絵双六、組上げ絵、立版古、フラップしかけの作品など百十点余りを集めて紹介します。
とりわけ、本展の見どころは、上方や江戸のあそびの花形であった組上燈籠、組上げ絵、立版古の作品を組み上げた実物三十八点が愉しめることです。一枚の浮世絵を切り抜いて組み上げられた立体ジオラマの魅力を堪能していただき、現代のヴィジュアルコミュニケーションの先駆けでもあったおもちゃ絵などを通して、広重や芳藤ら浮世絵師たちの大胆でウイットにあふれたしかけの表現技法や、独特の色摺木版技法の世界にも目を向けるきっかけとなれば幸いです。