資生堂は1872年に、日本で初めての洋風調剤薬局として創業しました。社名の「資生」は中国の『易経』の一節「至哉坤元 万物資生」から採っており、「すべてのものは大地の恵みから生まれる」という意味があります。シンボルマークの「花椿」や、主要なデザインモチーフである「唐草文様」は、この「万物資生」の意味を視覚化し、季節が巡るごとに新しい命を芽吹く植物の生命力を表現するアイコンでもあります。
開催する「せいのもとで lifescape」展は、この「万物資生」の世界観を、展覧会を通じて表現する試みです。ある特定のテーマに基づいて企画される展覧会は数多あり、資生堂ギャラリーでも過去に何回かテーマ展を開催してきましたが、企業ギャラリーであるからには企業の理念をテーマにした展覧会ができないだろうか、という考えをきっかけに本展の企画は始まりました。植物の命を写しとったかのような繊細な木彫りの彫刻をつくる須田悦弘氏がキュレーションを担当し、Christiane Löhr (クリスティアーネ・レーア)氏、志村ふくみ・洋子氏、佐野玉緒 (珠寳・しゅほう)氏、宮島達男氏が出品します。いずれも、生命の尊さを卓抜な感性と技術で表現する作家たちです。
Christiane Löhr氏は、ドイツとイタリアに暮らす彫刻家です。乾燥させた植物を素材に、小さな彫刻をつくります。植物の命が結晶化したような作品は、小さいながら神々しい輝きを放っています。
草木染めの人間国宝・志村ふくみ氏とその娘・洋子氏は、今回、織り上げた着物ではなく、「植物の命」で染めた糸そのものの美しさを引き出す展示を行います。須田氏のアイディアによる、志村氏初のダイナミックなインスタレーションです。
佐野玉緒(珠寳)氏は、京都・銀閣 慈照寺の花方。今回は銀閣 慈照寺境内で花をいける様を記録した映像作品を展示します。花の凛とした姿は、「花のこえをきく」と語る、佐野氏の真摯な気持ちの顕れでしょう。映像には国宝・東求堂も登場します。
須田氏も含め、上記の作家たちは花や植物を素材、あるいはモチーフにしていますが、宮島達男氏は全く違います。LEDを用いたデジタルカウンター作品で世界的に有名な宮島氏は、「それは変化し続ける、それはあらゆるものと関係を結ぶ、それは永遠に続く」という一貫した制作コンセプトが示す通り、繰り返し再生する命の尊さを表現しています。今回は、展示空間に合わせた新作インスタレーションが登場します。
上記の作品に加え、須田氏のセレクトによる、花椿や唐草文様をあしらった資生堂の商品パッケージ、広告物なども展示します。もちろん、須田氏の彫刻も会場のどこかに存在します。
異色の顔ぶれによる個性的な作品たちが織り成す「万物資生」の世界。須田氏の初キュレーション、志村氏の初インスタレーションなど、見どころが満載です。どうぞご期待ください。