岡村昭彦(1929~85年)は、1964年6月12日号の『ライフ』に9ページにわたり掲載されたベトナム戦争の写真によってフォトジャーナリストとして国際的にデビューを果たし、「キャパを継ぐ男」として一躍注目されました。65年には、フィン・タン・ファット南ベトナム解放民族戦線副議長(当時)との会見取材に成功しますが、そのために南ベトナム政府から5年間の入国禁止処分を受けてしまいます。ベトナムから切り離された岡村は、ドミニカ、ハワイ、タヒチなどを取材し、68年に家族とともにアイルランドに移り住みます。北アイルランド紛争を取材するためだけではなく、ベトナム戦争を核時代の実験戦争としたアイリッシュのJ.F.ケネディ大統領のルーツを追ってのことでした。そこを拠点に69年、日本人ジャーナリストとして最初にビアフラ戦争を取材します。また入国禁止処分が解けた71年には、徹底した取材制限が行われた南ベトナム政府軍によるラオス侵攻作戦の失敗の実態の取材に成功します。晩年はバイオエシックス(生命倫理)という言葉を掲げてホスピスの問題に取り組みました。
岡村昭彦の軌跡は、われわれはどんな時代を生きているのかを鋭く問いかけます。それは「世界史」の中を日本人はいかに生きてゆくべきかを示しているといってよいでしょう。
本展では、残された原板に遡って調査研究された成果をもとに、未発表の写真を中心に新たにプリントを作り展示構成します。そこにはこれまで言われてきた「フォトジャーナリスト」という言葉ではくくることのできない、岡村昭彦の思想と感情の軌跡が掘り起こされ、人間がカメラのレンズを通して、世界をどのように認識したかがあざやかに浮かび上がってくるでしょう。