車屋美術館開館5周年を記念する現代美術展「Mother/Land」では、ニューヨーク在住の原田真千子氏をゲストキュレイターに迎え、国際的に活動する8組のアーティストによる、土地と人を主題とするアート作品を展示します。様々な理由で置き換えられてしまった環境や状況、ディスプレイスメントについて考察する展覧会です。
_土地、ひと、いたみ、そして育み
全ての人に母国(マザーランド)はありますが、平穏な日常においてそれを意識することはあまりないでしよう。それは多くの場合、その土地を離れて暮らす移住者や、非日常時において強く憶われる、象徴としての土地や人々であり、自らのアイデンティティーが帰属する、政治・社会的な出身国を指します。母なるふるさととしてのセンチメンタルなイメージとともに、ナショナリスティックな響きを内包する言葉です。
3年前の東日本大震災では、地震と津波そして原発事故が一瞬にして土地と人を奪い、移住せしめ、多くのいたみが生まれました。被災者はもちろん、そうでない個々であっても、このいたみを克服したいと強く願い、私達の多くは国や人々を想う気持ちが強くなったのではないでしょうか。そして個人主義的社会のなかで失われていた、人々の共同意識や民族意識は、この災害を契機に呼び覚まされました。これらの意識は、災害支援や復興活動において極めて献身的かつ創造的な行動を生み出す一方で、他者を差別し憎悪表現をすることでいたみを癒そうとする行動が現れてきた事実も見逃す事はできません。
本展では、タイトルのマザーとランドの間に斜線を記すことで一語を分断し国家主義、民族主義的概念の解消を表明しています。そしてこの区切りが母性を強調し、私達の生存に不可欠な育成のアプローチ、大地の育みを慮らせずにはおかないことを主張しています。8組のアーティストの作品をとおして、かけがえのない日常や大切な人々に向きあい、慈しむ機会を共有したいと考えています。