「地球にやさしい」―このフレーズを私たちはよく耳にします。現代人にとって「リサイクル」は毎日の生活に必須のキーワードのひとつになっています。同時に、それは造形作家三宅道子のキーワードでもあります。
アメリカでガラス工芸と現代美術を学び、アート、デザイン、クラフトの分野にまたがって活躍する三宅道子は、ガラス(と光)の造形としての魅力を存分に引き出しています。二種類のガラスを交互に接着することで光と影の多彩な表情を創り出す「Light Stripes」、ビルや住宅でお馴染みの防火サッシュ用網入り板ガラスをオブジェの材料にした「Light Container」、写真フィルムの通常は役に立たない先端部を使ってミニサイズの絵画のようなカラフルな小品を作る「M.M.Rothko」、そして化粧品などの使用済みガラス瓶をスライスしてテラゾ(人造大理石)に埋め込んで造形し、廃品をゴミ箱から展示室へよみがえらせる「リサ」など、多彩な作品を発表しています。
今回、展示の中心となるものは、「リサ」シリーズとしてコカコーラの使用済みボトルを使い、美しく荘重な壁画のように仕上げられる大作です。切断されたガラス瓶は、それ自体、普段見慣れている姿とは違うイメージでの出会いを生みます。それが人造大理石のブロックに埋め込まれ、新たな生命を吹き込まれます。こうしたガラス瓶は、デザイナーが設計したそれ自体水準の高いデザイン作品です。陽気としての一つの使命を終えたガラス瓶が三宅道子の手でアートに生まれ変わるということであり、それは、ガラスの再利用だけではなく「デザインのリサイクル」でもあります。
三宅道子の作品には、現代人の生活に密着した、しかも普段は芸術という視点から縁遠くみえるところから豊かなイメージを作り出す、意外性と繊細さを感じ取ることができます。美術とリサイクルの出会いが生み落とした三宅道子の作品は、現代美術になじみの薄い人々の眼もひきつける面白さがあるだけではありません。そこには現代美術の方法論や手法へのさりげないレファレンスが忍び込み、イメージが何層にも重なった魅力もあるといえます。