「戦後日本住宅伝説―挑発する家・内省する家」展は人間の生活の基本である「衣・食・住」のうちの「住」に焦点をあてた展覧会です。国家的なプロジェクトを手がけてきた丹下健三の「住居」(1953)からはじまり、伊東豊雄の「中野本町の家」(1976)、部屋を移動するとき傘をさすという安藤忠雄の「住吉の長屋」(1976)まで、今や伝説ともなった16の70年代までの作品を建築家のコンセプトとともに探ろうとするものです。伝統の探求のなかにそのヒントを得たもの、都市とのかかわりに思いをめぐらしながら、その解法を見事に表現したものなど、建築家は建築を取り巻くさまざまな問題に取り組みながら表現を追究していきます。貧寒としたスペースに似たような住宅が生まれる中で「住宅は芸術である」と宣言した篠原一男は住宅建築の重要性を提唱し、注目されます。万博後、70年代の建築家の眼は強く内部に注がれ、平面を分節していく従来のようなやりかたに異を唱えるなど、新しい表現を追究していきます。必ずしも恵まれた状況にあるとは言えない日本の「住」。私的なヒューマンな空間である住宅に熱い視線が注がれた70年代までの建築家の表現は、あらためて住空間というものについて考えさせ、新しい視点を見出す機会を提供してくれるはずです。