肩を覆う鎧のような「ネックオーナメント」や、大きく膨らんで指からこぼれ落ちそうな「リング」など、独特のフォルムをもつ中村ミナトのジュエリー。その外見とは裏腹に、身につけるとしっくりと馴染み、着けやすいものばかりです。いずれも「装着時にできる空間そのものが作品」という中村の思想が浸透しています。
線や面、球体などで構成される明快なかたちは、中村が平行して進めている彫刻制作と密接に結びついています。大学で彫刻を学んだ後、小さな抽象彫刻を作ろうとしたことをきっかけに、ジュエリー制作に携わるようになりました。彫刻にも共通する幾何学的な作品は、ジュエリーの素材や表現が多様化する潮流のなかで、次世代の表現を拓くものとして注目されました。個展やグループ展をとおして、現在も旺盛な制作活動を展開しています。
身の丈をこえるほどの大きな彫刻は、房総半島にあるアトリエで、ジュエリーは、東京都心の工房で制作しています。これまで中村は、彫刻とジュエリーをはっきりと区別し、個展発表も別々に行ってきました。しかし近年、両者が近づいてきたように感じるといいます。中村の制作において、ジュエリーと彫刻はどのような関係にあるのでしょうか。本展では、ジュエリーを中心に代表作でこれまでの活動を紹介するとともに、両者の往還のなかに立ち現れる中村ミナトの制作の現在を取り上げます。