松井守男(1942年愛知県豊橋市生まれ)は、フランスのコルシカ島と長崎県五島市の久賀島を制作の拠点に活動する画家です。1967年にフランス政府給費留学生として渡仏。アカデミー・ジュリアン、パリ国立美術学校で学び、以後パリで画業を重ねました。その後、1998年にコルシカ島に本拠を移し「終の棲家」と定めますが、2008年に五島の久賀島を訪れた松井はその自然の光と歴史に心打たれ、以来同地にもアトリエを構え「第二の故郷」として制作の軸足を置いています。様々な苦悩を経つつも制作を手放さなかった松井は、ついに面相筆による極細の描線の重なりにより画面に光を顕現させる表現を確立しました。その西洋のものでも東洋のものでもない独自の芸術は高く評価され、フランス政府より2000年に芸術文化勲章を、2003年にはレジオン・ド・ヌール勲章を授与されるなど、日本人でありながら現代フランスを代表する画家の一人とされています。また現在は、五島市の「ふるさと大使」としても活躍しています。
長崎県美術館では平成24年度に本展に向けたプレ事業として松井の個展を開催し、その魅力の一端をご紹介しました。満を持して開催される今回の展覧会では、プレ事業開催時から今日まで描き貯められた縦2m、横10mにも及ぶ大作群(未発表作、最新作を含む)を中心に、松井が切り拓いた新たな境地をご覧いただきます。あわせて、代表作《遺言》(1985)や最初期の油彩画をはじめ、1990年代の作品、「富士山」のシリーズ、パステル画、ドローイング等を展示し、総数約200点の作品により愛と光に満ちた松井守男の世界をお届けします。東日本大震災からの復興への祈り、世界に誇るべき日本の精神の伝承、被爆地・長崎へのオマージュ、身の回りの存在への素直な愛情、自身の道程の回顧。作家の様々な想いが込められた作品の数々が一堂に会す本展は、自らの目と心を通し自分自身の価値観を育むまたとない機会となるでしょう。