キリスト教の絵画には東方正教の世界にある伝統的なイコンと西欧の美術としての聖画があります。今年度は玉川学園創立85周年を記念した特別展として、当館所蔵の美術資料の中から、東方正教のイコンと西欧の宗教画を紹介いたします。
本学園では、教育の理想として真・善・美・聖の四つの絶対価値の追求を掲げ、調和ある人格の陶冶をめざす全人教育を実践しています。全人教育は、学問・道徳・芸術教育とともに宗教教育を重視しています。一宗一派にとらわれることなく、神という絶対者をおそれ、神を敬愛する心を養うことを目的としてきました。当館のイコンおよび西欧絵画のコレクションは、このような本学の教育活動に資するために収集がはじまり、現在71点のイコンと西洋絵画13点を所蔵するに至りました。
イコンは、ビザンティン美術の一流として発達しました。8世紀のイコノクラスム(聖像破壊)の受難を経たのち、11世紀頃からのイコン敬拝の高まりとともに、板にテンペラ技法を用いたイコンがロシアやそのほかの東方正教会圏に広まっていきました。テンペラ技法は、顔料を卵黄で溶いて絵具としたもので、乾きが速く、発色がよいことと耐久性のある画面をつくることができます。
一方、西欧では4世紀にキリスト教が公認されて以降、宗教的な中世美術の時代を経て、聖書や宗教的な逸話をモティーフにした宗教画が多くの画家によって描かれました。15世紀からは顔料を油で練り合わせた絵具を用いる油彩画の技法や写実的な表現が主流となり、より人間的なキリストや聖母、聖人が描かれるようになりました。
展示では、東方正教のイコンと西欧絵画と比較することで、それぞれのもつ美と特性をより深く理解できる展示空間をつくります。
なお、この展覧会は展示スペースの都合により、会期を前期後期の2期に分けて開催いたします。イコンは半数ずつ前期と後期で展示し、西欧絵画は両会期とも同じ作品を展示いたします。
宗教画のもつ聖なる世界をぜひこの機会に両会期とのご堪能ください。皆さまのご来館をお待ちいたしております。
※当館では、イコンの聖母を「マリヤ」と呼称しています。