時代を震憾させた画家、ジャン・フォートリエ(1898-1964)の、日本ではじめての本格的な回顧展です。
フォートリエは、1908年にパリからロンドンに移住、ロイヤル・アカデミーとスレイド美術学校で学び、1922年、写実的な絵でサロン・ドートンヌに初入選。その後、色彩の暗い抽象化した画風へと変化し、1930年代は不景気もあり絵が売れず、美術界から一旦遠ざかりました。
第二次世界大戦が勃発すると、パリに戻ってアトリエを構え、制作を再開します。1943年からはドイツ軍の捜査を逃れ、友人の手助けを得て、戦時体験をもとにした連作に取り組みました。これらをパリ解放後すぐのドゥルーアン画廊の個展で発表、フォートリエは文学者、批評家らの称賛と批判を浴びながらパリの美術界へ復帰を果たしました。厚い絵肌に戦争で抑圧される人間像を半ば抽象的に印し、その主題と確かな存在感をもつ絵自体の強さによって、《人質》シリーズは、人びとに深い衝撃を与えたのです。
以降、フォートリエは、厚い絵具の層を基盤にして、人体や自然をテーマに、美しく緊張した絵画を突き詰め、1960年にはヴェネチア・ビエンナーレで大賞を受賞しました。
本展は、《人質》シリーズより絵画10点、彫刻2点を展示し、また、油彩、水彩、版画、彫刻等計約90点を時代別に紹介します。この機会に、その意義や歴史性を感じていただければ幸いです。