建築は、多くの人に開かれたものだと思う。ひとりでこつこつとデザインを描き上げたあげく、その実現を見届けもせずにあっさりと手放してしまうような建築家もいるが、私たちにはとうていそんな真似はできない。むしろ自分たちのアイディアやデザインが、雑ぱくな理論でしかないようなものから、やがて実体を伴った構築物として、この世に実現されるまでの道のりの中で、どのように変わっていくかを見届けたい。
まさにこの道のりを通じて、建築はつくられてゆく。たとえば世の中の現実からさまざまな要望や機会を与えられ、それに応えていくことによって。関わった人びとの間で揉まれるうちに、未熟だったアイディアが成熟していくにつれて。そして、私たちが手を動かしてデザインを構造体に近づけるにつれて。建築とはそもそも二元的なもので、その物質的側面と社会的側面とが車の両輪のように分かちがたく並存し、全体をかたちづくっている。これは、私たちが建築の仕事を通じて得た、唯一最大の知見かもしれない。
本展では、私たちの仕事の根幹をなしているもの、つまり私たちが拠り所にしている理念、そして私たちが行き着いた自由で柔軟なプロセスをお見せしたい。原寸大の模型と写真を通じて、初期の「バタフライ・ハウス」からノルウェー国内で手がけた最新のプロジェクトに至るまでの仕事を具体的に紹介する。また模型や写真と併せて、TYINの仲間や友人たちも紹介したい。彼らは、それぞれの専門的な職能を代表している人たちである。
人的なネットワークが重要な「ツール」であるTYINの仕事にとって、彼らの存在はかけがえなく貴重なものなのだ。
本展を、こうした仲間や学生たち、実務を担った職人たち、そしてそれぞれの地域のコミュニティに捧げる。彼らの力なしにはどのプロジェクトも実現しえなかった。
建築はこの先、個々の建築家の手を離れてそれに関わったすべての人びとの手と心と思いを通じて熟成していき、そしてその真価を発揮していくことになるだろう。
TYIN tegnestue Architects