戦後の日本画壇に大きな足跡を残した岩橋英遠は、現在の北海道滝川市に生まれました。農作業に従事しながら画家をこころざし、21歳のとき上京。31歳で院展に初出品・初入選してからは日本画の伝統に基づいた写実を軸に、幻想的で抽象性の強い表現を試みるなど、清新な感覚を取り込んだ独自の絵画表現を探求していきます。
画業30年の節目をかざる四部作「庭石(月)(水)(雨)(雪)」で石の存在感を表情豊かに表し芸能選奨文部大臣賞、躍動する宇宙のエネルギーを描出した「鳴門」により日本芸術院賞と受賞を重ね、その後も「彩雲」「誌(一)(二)」など大自然の営為を壮大なスケールで描いた作品を発表し続けて、1994(平成6)年には文化勲章を授与されています。
自然が内包する悠久の時間や神秘性を感得し、光と風が造り出す一瞬の光景をとらえる英遠の鋭敏な感覚と透徹したまなざしは、対象の深奥に迫って見事な造形美を紡ぎだし、日本画の表現領域を押し広げました。
本展では英遠の生誕100年を記念し、これまでの数々の個展の集大成として75年にわたる画業の全容を回顧します。全長29メートルにおよぶ大作「道産子追憶之巻」をはじめ、初期から晩年まで57点の代表作が織りなす“道産子”英遠の魂の詩は、ふるさとである北海道の大地を舞台に、今、新たな生命のドラマとして蘇ることでしょう。