画商として、また『美術年鑑』の主宰者として知られる故・油井一二 (ゆいいちじ) 氏は、昭和二六(一九五一)年頃に武者小路実篤と出会い、以来実篤に感化され、人生の師として敬慕しました。
五〇〇点以上の実篤作品を扱ったという油井氏ですが、手放せないでいるものもありました。例えば、商売で大きな失敗をした氏を勇気づけた「…七を七十倍した程倒れても なほ汝は 起き上らねばならぬ」との画讃を添えた達磨の絵や、画商として生きよという暗示を与えられたように感じたという「この道」の絵など、生きる上で大きな示唆を得た作品が手元に残りました。そうした作品の大半が、佐久市立近代美術館に寄贈されています。
本展覧会では、単なる画商と画家、買い手と描き手といった関係にとどまらない、油井氏と実篤の交流に焦点をあてながら、氏にとって思い入れの深い実篤作品をご紹介します。当館において油井コレクションは初めての展示となります