日本画家、松林桂月(まつばやし・けいげつ/1876~1963)は明治・大正・昭和の3つの時代を生き、数々の名作を残した近代を代表する日本画家です。山口・萩に生まれた桂月は、幼い頃から絵を好み、東京に出て文人画家・渡辺崋山の孫弟子にあたる野口幽谷に師事し、精緻で格調高い表現を学びました。また、親しんでいた漢詩の教養を活かして、詩・書・画の三絶の境地を目指す文人画―南画を描いたことも特筆されます。桂月は、南画の真髄ともいうべき水墨画においては他の画家の追随を許さず、その独特の叙情的な作風は高く評価され、1958年には文化勲章を受章しています。
本年は、桂月が世を去ってから50年という節目の年に当たります。この半世紀の間に開催された大規模な展覧会は、桂月の没後間もなく門人たちによって開催された遺作展と、1983年に山口県立美術館で開催された「松林桂月―その墨と色彩の妙―」展のみで、近年にはその芸術を通覧できる機会はほとんどありませんでした。そのため、桂月の名も、画も、一部の美術愛好家だけが知るところとなりつつあることが惜しまれます。
本展は、30年ぶりとなる回顧展として、初公開を含む大作、名品で、詩書画の全てに優れた才能を示し、近代にあって水墨画の表現を極めた、桂月の豊かな芸術世界を紹介するものです。