パリ近郊に生まれた ドアノー(1912-1994)、リトアニアに生まれ19歳でパリへ移住した異邦人のイジス(1911-1980)。現在もフランスを代表するヒューマニズムの写真家として世界中で愛されている写真家です。
大戦を挟んだ20世紀 のフランスを生きた二人ですが、イジスは写真館で技術を会得し、ドアノーは石版画そして広告写真を身につけていました。二人は、 ブラッサイが1932年に発表した写真集「夜のパリ」に大きな影響を受け、写真表現の新しい可能性を目の当たりにします。第二次大戦中には、レジスタンスやユダヤ人のために、石版彫刻師として、パスポートや身分証明書を偽造したというエピソードを持つドアノー、ドイツ軍に捕らえられてもレジスタンスの通告を拒み、その後レジスタンスの闘士たちの力強いポートレイトを撮影したイジス。どちらも自由と正義のため 、強い意志を持って生き抜いたからこそ、穏やかな日常を愛し、普通の人々の生活に目を向けることができたのかもしれません。生まれ育ちは全く異なるものの、共にパリという舞台を得た二人。「写真」をめぐる二つの円には重なる部分も見えてきます。
大戦後 、『ライフ』などのフォト・ストーリー雑誌が全盛期を迎えます。しかし、二人の写真にはそれらの流れに逆行するかのように、特別な場所も、出来事も見られません。ユーモアを愛したドアノー、空想家の呼び名を得たイジス。二人がひたすら歩き 、優しい視線で包み込んだ「パリ」を散策するように、印画紙に焼き付けられた市井の甘辛い人生の断片を、その生命の煌(きら)めきを見いだすことができたら、そして、その気持ちをまた誰かと分かち合うことができたら─。二人の写真は、悦びに満ちた様子で旋回する鳥の飛跡のように心の中に留まることでしょう。
本展覧会では、二人の代表作を含む作品100点を展示いたします。