本年は鹿児島市出身の洋画家、海老原喜之助(1904-1970)が生れて110年目となります。これを機に、近代洋画史に独自の足跡を残した海老原の画業を回顧する特別展を開催します。
鹿児島県立志布志中学校在学中に絵を描き始めた海老原は18歳で上京し、有島生馬の知遇を得て川端画学校に学びます。19歳で単身渡仏すると藤田嗣治の薫陶を受けながら、代名詞ともなる「エビハラ・ブルー」の雪景色などでエコール・ド・パリの次代を担う画家として注目されます。10年の滞欧生活を経た帰国後に発表した《曲馬》は、その鮮烈な色彩と簡潔なフォルムが若い画家たちに大きな衝撃を与えました。
戦前は庶民の生活を詩情豊かに描きましたが、戦後は熊本に転居し、デッサンに明け暮れる雌伏の数年間を過ごします。そして、戦後の再出発となる《殉教者》をはじめ、時代と社会に向き合うモニュメンタルな作品を手がけました。さらに、逗子に転居してからは《雨の日》などの夢幻性にあふれた浪漫主義的な作品を描きます。
晩年には、西洋の絵画的伝統と対峙するという意気込みをもって再びパリに赴きますが、彼の地で66歳の生涯を閉じました。
本展では、油彩画の代表作に加えて近年新たに発見された膨大なデッサンの数々、さらに版画や陶彫、陶器の絵付け、雑誌の表紙絵や挿絵などあわせて約290点の作品を紹介します。海老原の作品が21世紀の私たちに訴えかけてくるものは何か、その芸術の今日的な意義を探る展覧会です。