1930年代からのフォト・デッサンをはじめ、戦後も前衛的な版画や絵画に独創的な才能を発揮した瑛九(1911-60)は、栃木県真岡市の素封家で、美術評論家、美術館長ともなる久保貞次郎(1909-96)と戦前から知己を得ていました。その縁で、真岡で久保の絵画鑑賞頒布会に参加した額縁作家の宇佐美兼吉(1916-1999)も瑛九と知り合い、1950年代の貴重な自刷りのエッチングやリトグラフをはじめとした絵画、フォト・デッサンなど約300点近いコレクションを形成し、1994年に真岡市に寄贈しました。本展では宇佐美コレクションの瑛九を初めてまとまって公開するとともに、久保貞次郎自身が収集した版画や絵画などの豊かなコレクションのうち、真岡市に寄贈されたものや美術館のコレクションからその一部を展観します。前衛画家たちの支援に加えて、全国に絵画の小コレクターを誕生させ、また創造美育協会(創美)の設立により戦後の新しい美術教育運動を推進するなど、創造的生活のプロデューサーとも言える、久保の多面的な活動をあらためて振り返る機会と致します。