増井久恵氏が本格的に油絵を描き始めたきっかけは、子どもの独立から生まれた空白を埋めるためでした。同様の理由から始めた登山と並行して描き続けていくうち次第に魅了されていきます。58歳のとき国画会準会員(当時)の中山智介氏に師事、また、専門学校で学ぶなどして技術を磨き、神奈川県女流展や二科展で入選、極美展大賞受賞など実績を重ねました。
神戸市に生まれ、大学時代を奈良で過ごした増井氏は、身近に見ていた仏像や山焼き、薪能などの古典文化が制作の原点になっているといいます。仏像の模写や山岳風景から始まった制作活動は、やがて人物をモチーフとするようになり、自己の内面へと表現の幅を広げていきます。「生きた証を残したい」という作家は、その時々の心象を自身の心と対峙し、感じるままにキャンバスに写してきました。
今回の展覧会では、近年作を含め、初期の仏像や自らの思いを投影させた女性像、生命力に溢れた植物など多彩な作品を展示し、これまでの画業をたどります。