永瀬義郎(1891-1978)と川上澄生(1895-1972)は、大正から昭和にかけて独自の画境を切り開いた版画家です。
永瀬義郎は『白樺』に掲載されていたエドヴァルド・ムンクから影響を受け、版画を制作するようになりました。そして、長谷川潔とともに文芸雑誌『假面』の表紙を手掛けたほか、紺紙金摺の新しい表現を発表しました。また、版画の技法書『版画を作る人へ』を執筆し、創作版画の啓蒙に尽力しました。ベストセラーとなったこの本は、谷中安規、小野忠重、棟方志功、齋藤清らに広く読まれ、創作版画の普及に多大な貢献をしました。戦後も新しい技法を編み出し、晩年まで愛と浪漫を追求した作品を発表しました。
川上澄生は、1921年(大正10)頃から本格的に木版画の制作を始めました。翌年に刊行された永瀬義郎の『版画を作る人へ』を発売後すぐに購入し、木版画の制作を始めたばかりの川上澄生は「大いに恩恵を蒙った」といいます。また、1914年(大正3)に永瀬義郎が長谷川潔、岡本帰一らと始めた工芸美術品を扱う店「アカシア」に立ち寄ったこともあり、自分も同じような仕事がしてみたいと憧れを抱いていました。作品制作に於いても永瀬義郎の紺紙金摺の技法を試みています。
本展では、ほぼ同時期に活躍した永瀬義郎と川上澄生の、戦前の創作活動や、その後の作風の展開について紹介します。