川上澄生は子供の頃から絵本に親しみ、巌谷小波 (いわや さざなみ) の『世界お伽噺 (とぎばなし)』や『日本昔噺 (むかしばなし)』を愛読していました。学生時代を過ごした青山学院では聖書や西洋の芸術にも親しんでいました。木版画家として活動を始めてからも絵本に対する愛着と古今東西のものがたりへの興味は尽きず、ギリシャ神話や聖書、イソップ物語、日本の民話に着想を得たものまで数多くの絵本を作りました。
川上澄生の絵本は、絵本に親しんで育った大人のための絵本というべきもので、どれも楽しく心躍るものばかりです。趣向が凝らされた美しい装幀や木版による味わい深い挿画は、書物という形式を好んだ川上澄生のこだわりが感じられます。ものがたりの主題としては聖書やキリスト教に関するものが多く、とりわけ聖母子は一枚刷りの作品やガラス絵、油彩画にも登場します。また、イソップ物語への造詣も深く、書物の形式から一枚刷りの作品まで、生涯を通じて繰り返し描いています。
本展では、古今東西のものがたりから着想を得た川上澄生の絵本を中心に、ユーモアあふれるものがたりの世界を紹介します。